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福岡高等裁判所 平成6年(ラ)103号 決定 1994年7月04日

抗告人

石井明

抗告人

石井梢

右両名代理人弁護士

作良昭夫

松村和明

相手方

日本信販株式会社

右代表者代表取締役

澁谷信隆

右代理人弁護士

伊達健太郎

安部敬二郎

主文

原決定を取り消す。

本件訴訟事件を山口地方裁判所に移送する。

理由

一  抗告人らの抗告の趣旨及び理由は、別紙のとおりである。

二  そこで検討するに、本件記録によれば、本件訴訟事件は、相手方が平成四年一〇月一五日抗告人石井明との間で、パーソナルコンピューター一式についてリース契約を締結し、かつ抗告人石井梢との間で、連帯保証契約を締結したとして、リース料残金及び遅延損害金の支払を請求している事案であること、本件訴訟事件の土地管轄について、相手方は、右リース契約において、相手方の本支店の所在地を管轄する裁判所を管轄裁判所とするとの合意があり、かつ右リース契約は、相手方の天神支店との契約であるから、右支店が所在する福岡市を管轄する福岡地方裁判所に管轄があると主張していること、右リース契約の契約書には、リース契約について紛争が生じた場合には、相手方の本社、各支店、営業所を管轄する簡易裁判所及び地方裁判所を管轄裁判所とすることに同意するとの条項の記載があることが認められる。

三  しかし、相手方の商業登記簿の記載及び疎甲第六号証によれば、相手方は、東京都文京区に本店を有し、全国各地に支店及び営業所を有する会社であることが認められ、このことを合わせ考えると、前記のリース契約書記載の管轄の合意の趣旨は、リース契約について紛争が生じた場合には、相手方の本社及びすべての支店、営業所の所在地の裁判所を管轄裁判所とするという趣旨ではなく、紛争を生じたリース契約の締結を担当した本社、支店または営業所の所在地の裁判所を管轄裁判所とする旨の合意と解するのが相当である。

そして、本件移送申立事件において、相手方は、本件リース契約の締結を担当したのは、相手方の天神支店である旨主張するが、一件記録を検討しても、右主張にそう疎明資料はなく、かえって疎甲第五号証によれば、本件リース契約の締結を担当したのは、相手方の下関支店であることが認められる。

四  そうすると、本件訴訟事件について管轄権を有する裁判所は、右合意に基づく管轄裁判所である山口地方裁判所乃至同裁判所下関支部であると認められるところ、一件記録によれば、本件リース契約の締結については、抗告人ら及び関係人の一部が山口市に居住していることが認められ、右の事実を考慮すると、本件訴訟事件は、山口地方裁判所において審理するのが適切であると考えられる。

五  よって、本件抗告は理由があるから、原決定を取り消し、本件訴訟事件を民訴法三〇条により山口地方裁判所に移送することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官谷水央 裁判官石井義明 裁判官永松健幹)

別紙

抗告の趣旨

一 原決定を取り消す

二 本件を山口地方裁判所に移送する

三 抗告費用は相手方の負担とするとの裁判を求める。

抗告の理由

一 管轄の合意について<1、2省略>

3 本件管轄条項は、「相手方の本社各支店、営業所を管轄する簡易裁判所及び地方裁判所を管轄裁判所とする」という極めて抽象的包括的な内容であり、この効力を認めると相手方は全国のどこの裁判所でも訴訟提起できることになって極めて不当である。

よって、本件管轄条項は信義則に反し無効である。

また、相手方は本件が相手方天神支店との契約であるから、天神支店が存する福岡市を管轄する福岡地方裁判所に管轄がある旨主張しているが、契約書(疎甲一)には天神支店との契約である旨の記載はないうえ、相手方自身、「担当支店、担当者、意思確認者等、抗告人ら以外の関係者が存する山口地方裁判所下関支部が本件を管轄するにふさわしい裁判所である」ことを認めているのである(平成六年四月二二日付け移送の申立に対する意見書第四項)。

にもかかわらず福岡地方裁判所を管轄裁判所と主張することは、権利の濫用というべきである。

二 民訴法三一条にもとづく移送

原決定は、移送しなければならないほどの著しい損害又は遅滞を避ける必要があるとまでは認めることができないとしている。

しかしながら、本件を福岡地方裁判所で審理すれば、代理人の旅費日当、証人・本人の出頭費用等抗告人らにとって応訴のために必要な経費の著しい増大を招くことは明らかである。これに対し、原決定も認めるとおり本件を山口地方裁判所で審理すれば、抗告人らの負担は軽く、訴訟の促進にも資する反面、相手方は出頭費用の増大が考えられるが、相手方は各地に営業所・支店を有し、その営業活動によって利益をあげているのであるから、その負担を甘受すべきである。

前述のとおり、相手方自身、「担当支店、担当者、意思確認者等、抗告人ら以外の関係者が存する山口地方裁判所下関支部が本件を管轄するにふさわしい裁判所である」ことを認めていることも考えれば、本件は山口地方裁判所に移送するのが相当である。

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